夜の運動会
違和感。駒沢公園に向かってランニングしていると 一台の車が追い越して、「止まれ」の随分手前で 急に減速 … そのままスピードを上げて 目黒通りに抜けていった。
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ブレーキ地点でふと左に目をやると、お父さんが電柱にからまって倒れている。「あれっ?大丈夫ですか?」「…うーん、大丈夫だよ、大丈夫…んー」とはいうものの、全く立ち上がれる気配はない。「大丈夫?……お酒?」「…(うん…うん)…」「送りましょうか?」「大丈夫、んー。大丈夫…んー、酔っ払った」「…お家、近いんですか?」「…ん…あっちの方…うーん。酔っ払ったねーうーん…」「…とりあえず…立ちましょうか」「イテテ。いてえって。」嫌がるお父さん。でも 放ってはおけない。一呼吸おいて 再度 意思確認。「あの…やっぱ、送りますよ…?」「…ん、ん、…じゃあ…あっちの方…」
「はい、いきますよ、セーの、よいしょ〜」なんとか肩をいれることに成功。年月と芯の強さを感じる幹のような ガッシリとした身体。きっと仕事で鍛えられたんだろう。エントランスまでたどり着いたものの、一人で歩ける状態ではない。「家族の人、呼んできましょうか?」「あー…俺一人だから…」「じゃあ、部屋まで行きましょうか、ね。」「んー…わりいね〜」「何階ですか?」「…階っ…6階っ!」「…いいとこ…すんでますね…(遠い…)」
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…ダダダっ…「いてっ、イテェ」「あ、すんません!」肩を組んだまま二人でエレベーターになだれ込む。えーっと、6階っと…ブーゥゥンンン…「あ〜…俺一人で寂しんだよね〜」「…俺も独り身なんですよ〜」「あ〜…俺、昔は 立派な男だったんけどねぇ〜。ど〜〜ぉして、こ〜なっちゃったのかねぇ〜」「…あ〜…そ、そんな風に思い返せる立派な時期、俺に 来ますかね〜」「ほんとわりーね〜」「いやいや、お互い様ですよ。ホント、お互い様!(同じ酒呑みとして)」認識してくれていないだろうけど、何とは無しに 合いの手を入れる。
お住まいまで やっとこさ お連れして 鍵を開けた途端、お父さんは入り口に大の字になって、バタンキュー。「ハァ〜ぁっ…よっぱらったな〜……ありがとねぇ…」お父さんのポケットが何やら光りだす。探してたバッグを見つけたお店のママか、常連さんからの電話だろう…そう願いながら失礼すると、澄み切った秋夜。珍妙な二人三脚を 真ん丸お月様が ひっそりと観戦している。